多くの方は、自分の好みの文章というものをお持ちだと思う。好んで手に取る作家の書き方は無意識ながらその文章を好んでいるもの。秋田市周辺に住んでる方が目にする機会のある週イチ発行の「マリ・マリ」に連載する佐々木康夫先生のコラムが大好きだと書いたことがある。前回号には千秋公園のお堀のハスを近くで見られる遊歩道を歩いてみたことを書いていた。水に浮いているため眩暈がした感覚があったと。そのあと、ミルハスにて極上の音楽を聴いたという。潟上市出身の佐市さんの演奏。日曜の朝のクラッシックに親しむラジオ番組の公開録音を兼ねた公演。相変わらず文化的でオシャレな生き方をしてる先生だ。文章も軽快な上、知的。ホントに面白い。
もう1人。これも以前書いたことがあった。サキガケの土曜版「遠い風 近い風」に2カ月に1度くらいの頻度で掲載される井川直子さん。8月3日付のそれは「いい店」というタイトル。
以前もご紹介していたが、井川さんは随分前にdanchyという雑誌に秋田駅前の「永楽食堂」の記事を提供していて、それをあるクリニックで読んだ僕はどうしてもその文章を手元に置きたくて東京にいる配偶者の姪っ子に頼み、バックナンバーでその本を購入したことがある。とても心に沁みる記事を書く方だ。当然の如、今回も、だった。。。ある時、(たぶん30年くらい前)食通の上司に銀座で美味しくて「値頃」なお店の情報を訊ねると「人に聞くのは簡単だが自分で調べて何度か失敗しなさい」と言われる。しかし社会人になりたての彼女は「映画館と千疋屋のフルーツサンド」しか知らない地方出身者(井川さんは秋田市出身)にとって日本一の繁華街たる銀座の夜は「想像を絶する」うえにお金もない。上京する父親に自分の給料でご馳走したかったことを上司に告げると「それを早く言いなさい」と秒で自分の行きつけの小綺麗な焼き鳥店を予約してくれたそう。で、当日、やかんに入れた日本酒を高い位置からグラスに注ぎ、表面張力いっぱいで止める技に喜び拍手する父親。隣席のお客からは「娘さんと飲めるなんていいですね」と声を掛けられ終始上機嫌。たった2時間の焼き鳥店は、その後何十年も繰り返し語られるほどの思い出になる。。。ここで、井川さんは言う。「これが現代なら自分は「検索」でこの店にたどり着けただろうか。自分の給料や性格を踏まえて「客としての振舞い」や「注文の仕方」なども教えてくれる大人がいたから自分たち親子にとって忘れられない「いい店」となったのだ」。
そう。「いい店」は、気の合う周囲の人が教えてくれる。一生懸命に口コミサイトを検索して行ったお店より「美味しい日本酒」が好きな仲間の「あの店、コスパいいよ~」が100%当たりとなる。アナログ情報、恐るべし~ 井川さん、とても素敵な上司をお持ちでしたね。僕もそんな余裕のあるカッコいい年配者になりたいな…