30歳代の半ばころからだろうか、口内炎との付き合いが始まった。いきなり何の前ぶれもなく現れる。対処してもしなくても1週間
くらいで去っていく。体調や疲れストレスとは関係なく出現する。だが、口の中を噛んで傷つけてしまえばほぼ100%の確率で現れる。
出来始めはその部位が少しピリピリし始めやがてしっかりと花開く。しょっぱいもの等刺激物がとてもしみてツーンという痛み。何故か
普通の水さえもとてもしみる。どんなにおいしいお酒でもアルコール類は確実にしみる。
出現する場所も口腔内全体、唇、舌、歯茎、喉周辺、全部経験済。食べたり、飲んだりの時が大変だ。その部位に食べ物が触れない
ように飲食するのは至難の業。食べ物を味わうよりしみないように工夫する事に神経を集中しなくてはならず修行のようなもの。
喉の右奥に出来た時は頭を左側に傾け食べたものが喉の左側を通過するようにと必死の策。それでも食べ物は患部に触れていくために
飲み込む際には痛みで真冬でもびっしょり汗が出てくるほどの状態。この時は1週間で2キロほどやせた。ダイエットには最高かも
しれない。
普通にしゃべっている時もつらい。患部に舌や歯が触れると痛みが走る。講演を頼まれた時は大変だった。ただでさえ活舌が良くない
のに(そう言えば以前、海王丸という飲み屋さんで帰りに「代行車」をたのんだら「大根サラダ」が出てきたことがあった)モタモタと
患部にやさしく話をしなければいけないのだから。
この辛さはなった人でなければ分からない。経験者同士の話は盛り上がる。同部署のNさんとは口内炎つながりで共感し合っていた。
「この辛い痛みがあるからこそ、無いときの食事のおいしさ、ありがたさをより強く感じることが出来るのだ」とか、「この薬良い
ですよ」と分けて貰ったりしていたが最近は妙につれない。聞けば卒業して1年近くになるとのこと。「えーっ、そんなことありま
したっけ?」とすっかり忘却の彼方へ。「いつでも帰って来なさい」とやさしく声掛けをしてはいるのだが元のさやには納まりたく
ない様子。
痛くて辛い口内炎。でも、そのおかげで健康のありがたさがわかったり、仲間が増えたり。今の世に合わせて「with口内炎」と
ビールがしみる患部を仰ぎながら呟いてみた。